皆さんこんにちは!
新菱工機、更新担当の中西です。
~変遷~
ビルに命を通す最後の工事がエレベーター。
吊り込み・芯出し・配線・試運転という“黒子”の仕事は、技術・法規・社会の変化とともに大きく姿を変えてきました。ここでは戦後〜現在〜これからを、現場目線で一気にたどります。
1|〜1970年代:量の時代—機械室×リレー制御の黄金期
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大量供給:都市化に合わせ、学校・病院・集合住宅に次々と新設。
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機械室あり(MR):巻上機・制御盤は屋上機械室、駆動は交流二段制御やワードレオナード+DCが主流。
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工事の勘所:ガバナ・安全装置の調整、ガイドレールの通り(芯)出し、機械の据付レベル。
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安全文化:点検口や足場の整備が発展途上で、段取り=安全が現場の掟。
キーワードは**“とにかく動かす・止めない”**。快適性よりも可用性が優先されました。
2|1980–1990年代:制御の転換—マイコン×VVVFで“滑らかさ”へ
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マイコン化:群管理(複数台の最適配車)や故障セルフ診断が実用域に。
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VVVFインバータ:誘導電動機を可変電圧・可変周波数で駆動。乗り心地・停止精度が飛躍的に向上。
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ギヤレス化の萌芽:高効率モータ採用が進み、省エネ・低騒音の基礎が整う。
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工事の変化:制御配線の多芯からハーネス化、調整は波形・パラメータを見る時代に。
「速い・正確・静か」の三拍子が、エレベーターの新しい評価軸に。
3|2000年代:省スペースとバリアフリー—機械室レス(MRL)とPMSM
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機械室レス(MRL):**永久磁石同期モータ(PMSM)**が小型化し、巻上機を昇降路上部に内蔵。機械室のない設計が標準へ。
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省エネ設計:回生電源・LED照明・待機電力低減、回生電力の再利用が一般化。
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バリアフリー:かご寸法のユニバーサル化、ホームボタン高さ・点字・音声などのアクセシビリティ強化。
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工事の勘所:機械室から昇降路内作業が増加。揚重・落下防止・狭所作業の安全策を厳密化。
「省スペース・省エネ・誰でも使える」が発注要件の中心に。
4|2010年代:レジリエンスとIoT—“止めない・見える”を仕組みに
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地震・停電対策:地震時管制運転(EEO)・停電時自動着床(ARD)・ロープ揺れ抑制などBCP仕様が普及。
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IoT監視:遠隔で状態監視・ログ回収・予兆保全。メンテは**定期→状態基準(CBM)**へ。
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高層・混雑対策:ダブルデッキやデスティネーション制御で輸送能力を最適化。
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モダナイゼーション:ビルは残して制御盤・巻上機・ドア機器を更新する改修市場が拡大。
“取り付けて終わり”から**“運用まで設計する工事”**へ役割が拡張。
5|2020年代:スマートビル統合とデジタル施工—データが品質を語る
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スマホ連携・非接触:入退室と連動、タッチレス呼び・行先予約が一般化。
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クラウドVMS:複数棟の稼働・混雑・故障をダッシュボードで可視化、省エネ運転の自動最適化。
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デジタル施工:BIM連携・3Dスキャンでシャフト寸法を事前検証、レーザーでガイドレール芯出し。試験成績はクラウド台帳へ。
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人手不足対応:ユニット化・プレハーネス・治具で段取り勝負。夜間・短工期のリニューアルが増える。
価値の中心は**“データで説明できる可用性・安全・快適”**。
技術・ディテールの進化(要点サマリ)
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駆動:AC二段/ワードレオナード → VVVF+ギヤレスPMSM → 回生・最適運転。
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制御:リレー → マイコン → 群管理・デスティネーション → クラウド最適化。
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保安:ガバナ・セーフティの定番に加え、地震・火災・停電の自動モード。
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省エネ:LED・換気制御・回生、待機スリープで基本負荷を削減。
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施工:機械室据付中心 → 昇降路内作業中心(MRL)、レーザー計測×BIMで手戻り減。
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試運転:速度・停止精度・振動・騒音・ブレーキトルク・過速試験をデジタルロガーで記録。
ニーズの変遷:何が“選ばれる理由”になってきたか
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安全とレジリエンス:事故を“起こさない”だけでなく、起きても早く復旧。
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可用性と輸送効率:待ち時間の短さ、混雑時の配車賢さ。
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省エネ・LCC:初期費だけでなく電力・保全・更新までの総額最適。
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データの説明責任:検査・試験・アラートの記録を可視化できること。
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施工力(段取り):稼働中ビルの夜間・短工期リニューアルをノートラブルで完走できる体制。
現場の“やりがい”はこう進化した(役割別)✨
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据付:ガイドの芯がゼロで通る、静かに滑る乗り心地を調整で作り込む快感。
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電気・制御:パラメータと配車ロジックで待ち時間が目に見えて縮む達成感。
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リニューアル:稼働中の建物で夜間に切り替え、翌朝通常運転を実現する“台本仕事”の手応え。
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保全:ログから未然に止める。**「今日は誰も困らなかった」**が最大の誇り。
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PM:建築・設備・警備・テナントを束ね、予定どおりGo-Liveさせる統合力。
“今日から”役立つ:計画〜試運転チェックリスト ✅
計画
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シャフト寸法・インサート・開口のBIM照合/3Dスキャン
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揚重・搬入動線、夜間切替の台本(Go/No-Go基準・ロールバック)
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停電・火災・地震モードの試験項目合意
据付・配線
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ガイドレール通り・レベル記録/マシン架台トルク管理
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ロープ・ベルトの張力平衡、ガバナ・セーフティの機能確認
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ドア機器のクリアランス・安全光線、非常救出手順の掲示
試運転・引渡し
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速度・停止精度・加減速度・振動・騒音の測定ログ
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回生電力・待機電力・群管理のチューニング結果
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取扱説明・非常対応、点検モードの教育、クラウド監視の接続確認
これからの10年:エレベーター工事の行き先
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BIM to Fieldの常態化:設計→切断リスト→据付→試験ログまで一気通貫。
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状態基準保全の本格化:加速度・電流・温度・振動を常時計測し、交換時期を予測。
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エネルギー統合:回生電力の建物側再利用、非常時はバッテリー走行で避難を支援。
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スマートアクセス連携:入退室・EVが一体のUXに。混雑・省エネの最適化が自動化。
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人材の“二刀流”:据付+デジタル、電気+運用のハイブリッド技能が評価軸に。
エレベーター工事は“流れを生む最後の一手”
機械室の時代から、MRL・IoT・クラウドまで。
価値は「動く」から**“安全に、速く、静かに、止めずに”へ、さらに“データで証明する”へ。
段取り×ディテール×記録で再現する工事力こそ、これからの選ばれる理由です。
そして、引渡しの日に人の流れが生まれる瞬間**——それがこの仕事の変わらないやりがいです。✨
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